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2019.10.30(2020.04.20 更新)

【配布資料】今日から始める自然観察「ブナの森を歩こう!」

観察ノウハウ

専門度:専門度1

テーマ:自然観察ツール

フィールド:森林

【今日から始める自然観察】ブナの森を歩こう!(PDF/1.1MB)
<会報『自然保護』No.572より転載>
このページは、筆者の方に教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可)。ダウンロードして、自然観察などでご活用ください。

かつては身近に広がっていたブナの森も、今では奥山に行かないとなかなか出合うことはありません。

四季を通じてブナの森に入ると、多くの命の息遣いが感じられ心が穏やかになります。

そんな命息づく美しいブナの森を観察してみましょう。

瀬川 強(カタクリの会 自然観察指導員)


秋から冬のブナの森を楽しむ

ブナは九州から北海道南部まで分布し、日本列島が冷涼な気候に覆われていた古い時代から、世代交代を繰り返してきた日本列島を代表する森をつくります。

ブナの森に入ったら、足裏で落ち葉の重なりを感じてみましょう。林床の落ち葉はスポンジのように水をたっぷりと蓄えて、ゆっくりと川に流します。その水は森の土壌がつくりだしたミネラルを含み、水田に引かれて農地を豊かにし、また、海に注いだ水はプランクトンを発生させ、それをエサにする魚介類を増やして海を豊かにします。

ブナの実をかじると、とても美味しく、トチの実のように渋さや苦さもありません。クルミのように堅い殻にも覆われていません。小鳥から小動物、クマなどの大型動物まで食べることができます。

落葉を観察する様子とブナの実拡大写真
写真左:私がフィールドにしている岩手県西和賀町でのブナの森観察会(11月)。秋のブナの森は黄色に染まる。写真右:ブナの実。殻斗と呼ばれる殻に2個の堅果(実)が入っている。

ブナは数年間隔ぐらいに花を咲かせ大量に実を付けます。豊作の時は、カケスやネズミ類は食べきれない実を運んで隠します。ブナの実はカケスやネズミ類に運ばれて、新たな場所で芽生えることができるのです。ブナの実を多く食べる生き物たちは、豊作の時は個体を増やし、凶作の時は数を減らします。動物たちは増え過ぎず、森の生態系は保たれます。

秋のブナの森は、最初に実を落としてから黄金色の葉をまとい、落葉するとまるで布団のように実を覆います。落ち葉、キノコ、木の実を、色や形、香り、味など五感を使って観察できます。

森の冬は、突然に訪れます。寒さと乾燥に弱い低木の常緑樹は、雪に逆らうことなく、しなやかな枝をたわませ地面に伏せ、長い冬を越して春を待ちます。落葉後の明るい森で木肌に付着する地衣類やコケなどの色や形、常緑低木の冬越し、着雪、動物の足跡、などが観察できます。

 

幹に注目!

葉が緑の時期の幹の写真
▲ブナに降り注ぐ雨水は、葉で受け止められ、枝を伝い幹に流れ、樹幹流と呼ばれる滝をつくり根元に吸い込まれていく。この樹幹流により酸性雨が中和されるとの研究報告もある。

雪の付いた幹の写真
▲ブナの木肌は近くでよく見ると複雑な色や形の地衣類が付着してる。風の強く当たるところのブナの木肌は、地衣類もコケも付着できず白っぽく見える。

ブナの森に特有の生き物

フジミドリシジミ
▲フジミドリシジミ
幼虫はブナの葉を食べる。成虫は6~8月に見られる。卵はブナの枝に産み付けられ、卵で越冬する。

ブナアオシャチホコの幼虫
▲ブナアオシャチホコの幼虫
ブナの葉を食べる。幼虫が見られるのは7~8月ごろ。9月には地面に降り、蛹で越冬する。初夏に成虫になる。

ツキヨタケ
▲ツキヨタケ
主にブナの倒木や枯れ木に生える。ヒダは白色で発光性があり、中毒例の最も多い毒キノコとして名高い。

葉っぱに注目!

ブナの葉
▲ブナは、若葉以外はほとんど毛がない。表面は濃緑色でイヌブナより色が濃い。葉の縁に波状のゆるやかな鋸歯がある。側脈は7 〜11対。葉の長さは3.5〜8cm。

イヌブナの葉
▲ブナによく似たイヌブナは、主にブナより標高が低い場所や太平洋側に自生し、北限は岩手県。ブナに比べて、葉は柔らかく裏に毛が多いのが特徴。葉脈が細かく、側脈は10〜14対。葉の長さは5〜11cm。ブナより、イヌブナの実は小さく、木肌は黒っぽい。また萌芽することが多い。

葉っぱの大きさが違う?

ブナの分布を示した日本地図
『Newton special issue 植物の世界第4号』(教育社)を参考に作図
▲ブナの分布(緑色の部分)と葉の大きさ
西日本と北日本、太平洋側と日本海側ではブナの葉の大きさも違う。西日本や太平洋側では小さく、日本海側や北に行くほど大きくなる。私の観察した範囲では、樹高が数mほどの若いブナの葉は大きい傾向がある。


おすすめ図書
著者:瀬川強『ブナの森を探検しよう!さぐろう、四季と生物多様性』発行:PHP研究所

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