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2019.10.24(2019.10.24 更新)

辺野古・大浦湾  生きものたちの物語

読み物

専門度:専門度1

テーマ:生息環境保全絶滅危惧種海の保全

フィールド:

米軍基地移設に伴う埋め立て問題で揺れる沖縄県名護市の辺野古・大浦湾。

辺野古・大浦湾には、絶滅危惧種のジュゴンをはじめさまざまな生きものたちが暮らしています。彼らは、辺野古の埋め立てが進めば犠牲になってしまうかもしれません。今回は、ほんの一部ですが、辺野古・大浦湾に暮らす生きものたちの姿をご紹介します。


サンゴ礁の生きものたち

世界最大級の 巨大アオサンゴ群集

 

大浦湾のアオサンゴ群集。右の写真は、8本の小さな白い触手を伸ばしプランクトンなどを捕るアオサンゴ。IUCNレッドリスト絶滅危惧Ⅱ類。

 

大浦湾でアオサンゴの大群集が見つかったのは2007年。群集は長さ50m、幅30m、高さ14mと世界的にも大規模で、天然記念物に指定する動きもあるほど立派なものです。

アオサンゴはインド洋や太平洋の暖かい海域に分布し、沖縄島周辺は分布の北限域。日本では沖縄県石垣島の白保の大群集が有名ですが、白保のアオサンゴは水深1~3mほどの浅瀬に小さなまとまりで点在し、枝は板状の形をしているのに対し、大浦湾のアオサンゴは水深1~13mの斜面にひとつの塊となってまとまり、枝の形は円柱状。それぞれが潮の流れや波当たりといった環境に応じ特有の形状になっているのです。

サンゴといえば産卵シーンが有名ですが、アオサンゴは雄サンゴが放出した精子を雌サンゴが受け取り体内受精して、卵ではなく赤ちゃん(プラヌラ)を産みます。生まれたプラヌラはしばらく雌サンゴの群体にしがみついて過ごした後、近くの海底に着地して自分の群体をつくります。この繰り返しでアオサンゴ群体は少しずつ広がっていくのです。ただ、これまでの研究で大浦湾のアオサンゴ群集は遺伝的に単一であることが分かっています。つまり、この大きさになるまでクローンで増え続けてきたということで、学問的にも注目されています。

 

オスが子育て ネオンテンジクダイ

大浦湾のユビエダハマサンゴの間に数匹の群れで暮らしているネオンテンジクダイ。雄が卵を口の中で孵化させ、稚魚をしばらく口の中で育てるという面白い習性を持っています。汚染されていない川の水が流れ込む静かな湾内にしか生息しないため、奄美大島から八重山諸島まで広く分布するものの、沖縄島では大浦湾のほかには報告例がほとんどありません。

 

クマノミたちのアパート? クマノミ城

大浦湾の『クマノミ城』には、ひとつの塊状サンゴに数十匹ものハマクマノミが暮らしています。イソギンチャクと共生するハマクマノミは数匹でグループをつくることが多く、1カ所で数十匹も見られるのは珍しいこと。実は、ハマクマノミは雄から雌に性転換する魚で、グループで最も大きな個体が雌になり、その雌がいなくなると次に体が大きい雄が成長し雌になるという生態を持っています。クマノミ城のように密集している場所では一体どのようなグループ構造になっているのでしょうか? 調べてみれば、ハマクマノミの新たな一面が見えてきそうです。

 

サンゴに産卵する コブシメ

奄美諸島より南の海に暮らす大型のイカ、コブシメは、普段沖合で過ごしますが、秋から春にかけて産卵のためにサンゴ礁の浅瀬にやってきます。コブシメのカップルは口を合わせるようにして雄から雌に精子を渡し、雌はサンゴの枝に卵をひとつずつ産み付けます。生まれた子どもはサンゴに守られながら成長していきます。

 

共生藻からご飯をもらうヒメジャコガイ

稚貝のころから周囲の石灰岩を溶かして穴を掘り、その穴から一生動くことなく暮らすヒメジャコ。こんな生活を可能にしたのは、外側に広げているタラコ口唇のような外套膜に、共生藻と呼ばれる単細胞植物を大量に住まわせているからです。共生藻が光合成でつくりだすエネルギーを利用して生きる、驚きの自給自足生活です。

 

残された良好なサンゴ群集

パラオハマサンゴ群集(左)とユビエダハマサンゴ群集の上を泳ぐコブシメ(右)。

 

世界の亜熱帯・熱帯の浅い海に分布するサンゴ礁は、サンゴ類など石灰質の骨格を持つ生物がつくり上げた地形です。サンゴ礁の複雑な空間は魚類や貝類、甲殻類などさまざまな生物のすみかとなり、世界の海に生息する動物の4分の1はサンゴ礁域に暮らしているといわれるほど生物多様性の高い環境です。

辺野古・大浦湾は、外洋に面した場所から湾奥までさまざまな環境があり、環境ごとにハマサンゴ類、コモンサンゴ類、キクメイシ類、ミドリイシ類、アザミサンゴなど多くのサンゴ群集がとても良好な状態で生き残っている、沖縄島では数少ない海域です。

それぞれのサンゴの産卵も確認されていて、ここが沖縄島東海岸のサンゴの供給源となっていると考えられています。沖に近いハマサンゴの丘には、白化現象を生き延びた多くの種類のハマサンゴが広がっています。健全なサンゴ群集の指標となるスズメダイ類が群れ、沖合からやってくるカマスやヒメジの群れも見られます。ユビエダハマサンゴ群集には、冬にはコブシメのつがいが産卵に訪れ、一見岩のような塊状ハマサンゴ群集にも、赤や黄色、オレンジ色などのカラフルなイバラカンザシや、ウミシダなど多くの生きものが暮らしています。

 

海草藻場の生きものたち

沖から戻ってくるスクの群れ

アイゴ類の仲間の幼魚(スク)は、孵化後は沖合でプランクトンなどを食べていますが、体長2cmほどになると藻食に変わるため、群れで沿岸に戻ってきて、海草藻場で海草に付く藻類などを食べるようになります。毎年旧暦6月1日の大潮に沖からやってくるスクの群れは、沖縄の海に夏の到来を告げる風物詩。この時期に採ったスクの塩漬け『スクガラス』は沖縄珍味として愛されています。

 

モズクの赤ちゃんの発芽場所

沖縄の特産品のオキナワモズク。自然の海では、「藻付く」の名前のとおり、藻や海草にくっついて成長します。潮通しの良い海草藻場の中で発芽し、そこから海草藻場の外側まで広がっていくと考えられています。

 

海草でカムフラージュ

沖縄の食用ウニを代表するシラヒゲウニは、海草や海藻を食べて育ちます。写真のように体の上に海草をくっつけているのは、天敵である魚から見つかりにくくするためのカムフラージュだと考えられています。

 

葉の表面も大事なすみか

海草の表面には、巻き貝をはじめ多くの生きものが暮らしています。写真右は2010年の調査で見つかったクサイロカノコ。鮮やかな黄緑色をした希少な巻き貝で環境省準絶滅危惧種です。

 

命のゆりかご 海草藻場

ジュゴンの貴重な餌場である辺野古・大浦湾の海草藻場の調査に、日本自然保護協会は2002年から地元団体や市民の方々とともに取り組んできました。辺野古沖の海草藻場は沖縄島で最大の藻場で、広い面積に一様の海草類が生えているのではなく、複数の種が混在する浅い場所や、ボウバアマモ類1種が密生する場所、水深が深くリュウキュウスガモが優占する場所などさまざまです。10年以上の調査の中で、一度04年の大きな台風の後ボウバアマモが減少しましたが、05年にはすぐに回復傾向となるなど、常に安定して一定の規模を保っていることも確認されました。こうした安定性と、変化に富んだ多様な環境が、海草藻場を生息場所などとして利用する生物の暮らしを支え、生物多様性を高めているのです。

海草藻場はジュゴンの餌場になるだけでなく、さまざまな魚たちの産卵場所や稚魚の生育場所になり、モズクやウニなど私たちの食卓を支える生きものにとっても大事なすみかとなります。また、陸上の植物と同じように光合成をする海草は、二酸化炭素を吸って海の生物たちに必要な酸素を放出したり、しっかり根をはることで海底の砂が動かないように安定させるなど、海の生態系の中で重要な役割を果たしています。光が届くきれいな水質の浅瀬にしか生えない海草藻場は全国的に減り続け、保護が求められる貴重な場所となっています。

 

泥場・砂地・ガレ場の生きもの

歩くサンゴ!? 正体はキクメイシモドキを背負ったスイショウガイ

大浦湾の奥、川から流れ込んだ細かい泥がたまった海底には世界的にも珍しい『歩くサンゴ』が暮らしています。その正体は、キクメイシモドキというサンゴがスイショウガイという巻き貝の殻に付着したもの。キクメイシモドキは、ほかのサンゴが生息できない泥っぽい海底を好む変わり者で、ふつう岩などについて群体をつくります。もともと泥っぽい環境に強いサンゴが、スイショウガイの背中にくっつくことで泥に埋まることなく、泥の海底にまで生息範囲を広げていると考えられています。

 

新種の宝庫? 深場の泥質海底
大浦湾の大きな特徴のひとつが、湾内に水深30mを越える深い谷があることです。一般的にサンゴ礁海域では、サンゴ礁の内側は水深5mほどの浅瀬(礁池)になりますが、大浦湾では、湾奥から埋め立て予定地を含む辺野古崎にかけての岸には礁池がなく、岸から急に深い谷となっています。谷底は大浦川などから運ばれてきた栄養たっぷりの泥が積もった泥場。谷の上側斜面はイシサンゴの骨格が積み重なったガレ場になっています。また、湾の中ほどの水深5~20mの範囲には砂地が広がっています。

泥場やガレ場、砂地は一見何もいないようですが、目を凝らせば、泥場や砂地特有の生きものたちがたくさん見えてきます。実際、大浦湾のこれらの環境では新種や日本初記録といった希少な生物が数多く確認されています。中でもオオウラユビピンノというカニや、シンノワキザシという小さな甲殻類の仲間は、世界中で大浦湾だけでしか確認されていません。サンゴ礁が発達した海域では泥質の海底環境そのものが少ないため、研究も少ないのです。まだまだ多くの未知の生物が潜んでいるかもしれません。

出典:日本自然保護協会会報『自然保護』No.547(2015年9・10月号)

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