2019.04.24(2023.02.15 更新)
生物多様性自治体のすすめ ~綾の照葉樹林プロジェクトと綾ユネスコエコパーク最新動向から~
報告
専門度:
自然生態系農業が進み、希少種がたくさんいる綾BR移行地域の里山
テーマ:環境教育ユネスコエコパーク生物多様性地域戦略
NACS-Jが官民協働で自然林を復元する綾の照葉樹林プロジェクトに取り組み始めたのは2005年。それが中核となって、2012年には人と自然との共生を目指す綾ユネスコエコパークが誕生しました。
綾町の奥山で行われていた照葉樹林プロジェクトはエリアを拡大しただけでなく、エコパークという世界的なネットワークに参画することで国内外の連携の幅が広がりました。また、自治体はエコパーク登録をきっかけに重点施策のひとつに生物多様性保全を位置づけ、役場の体制を変えていくことになりました。
2015年宮崎県綾町は、綾町生物多様性地域戦略を町民参加で策定し、地区ごとに人と自然が共生するための長期的な方向性を示しました。翌年には綾ユネスコエコパーク(以下、綾BR)を運営するために、役場内に課と同等のエコパーク推進室を設置し、全課が横断的な情報交換ができるようにしました。
これは縦割りが基本の行政の中で画期的な変革です。また、専門的なアドバイスを受けるための委員会や部会、綾の照葉樹林プロジェクト(以下、綾プロ)との連携を図る協議会のほか、最近ではまちづくり協議会が設置され、自然体験、商品開発などが町民参加で議論されています。
さらに、大学との連携を進め、科学的な知見の蓄積に努めています。昨年4月には綾ユネスコエコパークセンターが開設され、町内の自然や綾BRの発信拠点になっています。
照葉樹林の復元に向けて
綾BRの動きに呼応して、綾プロの動きも活発になりました。これまで復元に向けた施業ガイドラインが国有林についてのみ、九州森林管理局により策定されていましたが 、町有林や県有林を含め綾町エリア全域の保全管理計画を策定しようとしています。また、14年に綾町の小学校や中学校がユネスコスクールに登録されてからは、持続可能な開発のための教育(ESD)にも力を入れるようになり、綾プロエリア内の森林環境教育を進めていく計画です。
また、2005年から10年間の綾プロの評価を行いました。人工林を伐採した場所に生えてきた高木種の種数や個体数を調べたところ、伐採後6年経つと、シカの嫌う植物が残り、種数や個体数も少ないことが分かりました。伐採初期にシカによる採食を受けるためと推測され、伐採後10年以上が経過しても復元が進んでいない場所が多く見られました。
そのため、伐採後は自然に周辺の植物が侵入するのを待つというこれまでの方針を転換し、補助的な手法としてエリアを区分し植樹による復元を取り入れ、間伐後のシカ対策を行う検討をしています。種子集めや苗木作りなどで市民参加も期待できます。また、間伐材の活用の道筋を模索したいと思います。
▲綾ユネスコエコパーク核心地域に広がる豊かな照葉樹林
▲綾BRセンターを訪れる小学生。綾町内の生きものが展示されており、ふれあうことができる。(写真:綾町)
▲綾プロのボランティア間伐作業の様子
▲綾BRの推進体制
担当者から一言
リポーター
生物多様性保全室 朱宮丈晴
今の段階では、核心地域のない里地や里海へのBRの適用は難しいのですが、人と自然の共生モデルとして、自治体の協力を得ながら、里地や里海のみのBRも目指していきたいと考えています。BRについて詳しくは『ユネスコエコパーク~地域の実践が育てる自然保護』が京都大学学術出版会より発売されています。
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