2019.04.10(2019.04.11 更新)
【解説】自然環境保全法が改正されます
解説
専門度:
テーマ:自然環境調査海の保全
保護部の辻村です。
いま、国会で「自然環境保全法」という法律の改正案が審議されています。この、自然保護にとって重要な法律改正についての審議は、2019年1月28日に召集された第198国会(常会)で始まりました。
自然環境保全法の目的は「自然環境を保全することが特に必要な区域等の生物の多様性の確保その他の自然環境の適正な保全を総合的に推進すること」です。
自然環境を保全することによって「広く国民が自然環境の恵沢を享受するとともに、将来の国民にこれを継承できるようにし、現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与すること」と続いています。
この法律が施行された1972年は、高度経済成長の真っただ中。多くの重要な自然環境が破壊されると同時に、公害問題が噴出していた時です。公害国会を経て、前年の1971年に環境庁が発足しています。こうした時代に施行された本法律は、当時として画期的なものでした。
自然環境保全法には大きな3つの柱があります。一つ目は、自然環境基礎調査の実施です。一般に「緑の国勢調査」と呼ばれ、陸域、陸水域、海域 の各々の領域について国土全体の状況を調査し、報告書及び地図等にとりまとめられたうえ公表されています(図-1)。
二つ目は自然環境保全基本方針の策定です。そして三つ目が、自然環境保全地域の指定です。つまり、調査を行い、それに基づき基本方針を定めて、保護地域を指定するというのがこの法律の枠組みです。この三つの柱それぞれ自然環境保全法を根拠に、予算が組まれ、国の事業が展開されてきました。
自然環境保全法の課題
冒頭で自然環境保全法の目的をご紹介しましたが、目的には「自然公園法その他の自然環境の保全を目的とする法律と相まつて」という言葉がついています。そのため、環境省は2008年に自然公園法が改正されたとき、これにあわせて自然環境保全法の課題を整理しました。
そこでは以下の大きく二つの課題が挙げられました。
- 予防的順応的な手法による生態系管理の充実
シカ等の食害や他地域からの動植物の侵入・持ち込みによる生態系の変化に対応するため、生態系管理の枠組みの構築等必要な措置の充実 - 海域保全の充実
自然環境の保全上重要な海上を含む海域において、保全措置の拡充や、海域ごとの状況に応じたきめ細かい自然環境の保全を図るため必要な措置の充実
2008年といえば、各地でシカの食害が顕在化し、その対応が喫緊の課題となり始めていた頃です。また、2010年に愛知で開催される生物多様性条約締約国会議で、海洋の保護区の拡充が中心議題の一つになることが予測されていた時期でもありました。
このときの改正で、自然環境保全法は、生態系の修復事業が保護区内でもできるように改正されましたが、海域の保全は十分に進められませんでした。そこで、今回、海域の保全の充実を大きな課題として法改正が考えられました。
2020年は、2010年の生物多様性条約締約国会議で掲げられた目標のひとつである「海域の10%を海洋保護区にしよう」の達成年でもあり、環境省としては政府公式見解の8.3%から増やすことが喫緊の課題と考えていたという背景もあります。そこで沖合域の海底自然環境を、自然環境保全地域に指定できるように法律を改正し、我が国の海洋保護区の国際公約10%を達成することを目指したのが、今回の改正です。
ただし、8.3%という日本の海洋保護区の内訳は、「自然景観の保護等」が0.4%、「自然環境又は生物の生息・生育場の保護等」が0.1%、「水産生物の保護培養等」が 8.1%となっています。ほとんどが水産生物の保護培養で、漁業管理の枠組みもあわせての8.3%です。漁業に関連する生物だけでなく、海にいる多様な生物の保護や海の生態系保全を目的にしている保護区はごくわずかです。
日本自然保護協会の対応
日本自然保護協会は、今回の法改正で、これまで対象となっていなかった沖合域の海底自然環境の保全が進むことは評価します。しかし、海洋保護区の設定がこれで終わりとなっては意味がなく、海洋保護区の中身をより保護区にふさわしいものにしないと意味がないと考えました。
そこで自然保護NGOの考える課題を整理し、改正案では十分ではない課題を抽出して、衆議院の環境委員会に所属する国会議員を訪問して考えを伝えました。同時に環境省ともそれぞれの考える改正案の良いところと課題とを議論しました。
日本自然保護協会の基本的な主張は以下の5点です。
- 我が国の生物多様性保全上重要な海域を後世に引き継ぐために、沿岸域を含め、自然環境基礎調査による調査を充実させ、さらなる保護区の指定を推進すること
- その際に、生物多様性保全とあわせて持続可能な漁業との両立を目指した保護区の指定制度創設を検討すること
- 陸域については、絶滅危惧種の半数が里地里山に生息・生育することから、人の手が入ることで保たれる自然環境の保全を目的に里地・里山環境の保護区化についても検討をすすめること
- 以上の実施のために、自然環境基礎調査にかかる予算と人員の十分な確保を図ること
- 保護区の設定による生物多様性保全が有効であるかを検討したうえで、本法案の見直しを5年をめどに検討すること
今回の改正案は国会に上程されているので、法案を変えてもらうことは困難なため「附帯決議」を付することを目指しました。附帯決議とは耳慣れない言葉と思いますが、法律の可決にあたって付けられる決議文です。「政府が法律を執行するに当たっての留意事項を示したものですが、実際には条文を修正するには至らなかったものの、これを附帯決議に盛り込むことにより、その後の運用に国会として注文を付けるといった態様のものもみられます。」(「法律の審査」参議院のあらましより)
法案の修正まではできなくとも、政府に努力目標や留意事項を示すことが可能となります。
4月2日の衆議院環境委員会では、上記のNGOの主張に深い理解を示してくれる議員、自然環境保全法の重要性にも理解が深い議員らもいる中、落ち着いた議論の上で改正案が全会一致で可決され、同時に、日本自然保護協会の提言も盛り込まれた附帯決議が全会一致で可決されました。今後は衆議院本会議での可決、参議院での審議を経て成立する見込みです。
法改正の成立後は、附帯決議で付された方向性について、行政と関係機関が連携して施策のさらなる発展を目指していくことになります。法律をつくる役目は、私たちが国会議員に託しているものですが、できた法律はわたしたちのくらしや地域の自然保護に大きく影響してきます。今後の進捗に目を向け続けることが重要になります。
皆様のご協力が必要になりますので、ご支援のほどよろしくお願いいたします。
<参考>
法律案の審査/参議院のあらまし
http://www.sangiin.go.jp/japanese/aramashi/keyword/katudo01.html
図-1.自然環境保全基礎調査の実施状況(環境省生物多様性センターHPより引用)