2018.12.07(2018.12.10 更新)
辺野古の海の緊急調査報告3~護岸周辺と深場のサンゴの状況~
調査報告
専門度:
テーマ:海の保全
フィールド:辺野古・大浦湾
自然保護部の志村です。
辺野古の埋立工事が停止されていた間、日本自然保護協会は緊急調査を実施し、工事中は知ることができなかった海の状況を調べてきました。今回は、護岸周辺と深場のサンゴについてのご報告です。NACS-Jのスタッフが、長い長い護岸に沿って海に潜り、何日もかけて周辺のようすを記録してきました。ご支援くださったみなさま、ありがとうございました。
8月31日に沖縄県による公有水面埋立承認撤回により、9月1日から10月31日まで辺野古の埋め立て工事が停止されていました。日本自然保護協会では、ダイビングチーム・レインボーの協力を得て、これまで立ち入りが禁止されていた臨時制限区域の中の調査を行いました。
海草藻場と長島の洞窟の調査についてはご紹介したので、今回は護岸周辺と深場のサンゴの状況をご紹介します。
※ 調査費用に充てるため、まだご寄付をお願いしています。ぜひご支援のほどお願いいたします!
1)キャンプ・シュワブ南側の護岸周辺
キャンプ・シュワブ南側に位置するK2護岸からK4護岸のあたりはきれいな砂地が続き、その上に海草藻場が展開する場所でした。数か月前に作られた護岸により物理的に海草藻場が消失していますが、直接の消失部分のみならず護岸の外側の海底にも変化が生じていました。
K4周辺は護岸のブロックぎりぎりまで海草が生えていました。護岸は最近まであった豊かな海草藻場の上に設置されたことが伺えます。場所によっては礫や岩がブロック周辺に集まっていたり、砂が盛り上がるなど海底地形に変化が生じているのがわかりました。礫や岩により護岸が埋もれている場所も多々ありました。
さらに、ブロックが漁礁のような効果を発揮しているらしく、以前はこの浅瀬では見かけなかった種類の魚が護岸付近に集まっていました。K1、K2護岸など陸上に近い部分には泥が堆積していました。海草の上にも泥が堆積しており、貝類の死滅も多くみられました。
<参考>
【琉球新報】辺野古新基地建設、今どこまで進んでいる? 埋め立て予定区域は護岸囲まれ、土砂投入へ(https://ryukyushimpo.jp/news/entry-828056.html)
2)K9護岸周辺
キャンプシュワブの東側、大浦湾としては西部に位置するK9護岸の周囲の様子も調査しました。この付近には以前は小規模な海草藻場が広がっており、2014年5月から7月の2か月間には、ジュゴンの個体Cのものと考えられる食痕が合計151本も残されていたほど好んで利用した場所でした。今回の調査では、かつて海草藻場があった場所にK9護岸が100mほど建設されていました。時間の関係でくまなく調査することはできませんでしたが、K9護岸のジュゴンの生息に対する影響は大きいものと思われます。いずれの場所も定量的な調査が必要です。
K9護岸の周囲にあった海草藻場は、シュワブ南側のものと比べると被度は低かったのですが、なぜかジュゴンの個体Cが好んで餌場にしていました。今回調査した限りでは海草藻場は見つからず、海草がどこかにあったとしても、沖縄防衛局の調査結果が示すようここにはジュゴンは戻ってきていません。ジュゴンがどのような条件の海草藻場を好むのか、個体による好みの差など基礎的な情報もまだ解明されていません。解明する努力もせぬままジュゴンが来られない状況になってしまい本当に残念です。
3)コモチハナガササンゴ群集
大浦湾のK9護岸の沖合の水深32メートルの深場に棲むコモチハナガサンゴの群集を、ダイビングチームすなっくスナフキンの西平さんのご案内で見に行きました。単なる泥場のように見える斜面を降りていくととつぜん、海底に広がる花園のようなコモチハナガササンゴ群集が見えてきます。東西に45m、南北に37mに広がっており、このサンゴ自体はほかの場所でも確認されているものの、これほどの規模の報告例はここだけです。
このサンゴはイシサンゴにしては珍しく岩に固着せず、泥の上で生活し、群体が分裂することで泥場への生活を可能にしている自由生活型という生活史をもつ、学術上とても貴重な種類です(Kitano et al 2013)。この場所は臨時制限区域内のため、今年4月に米軍に立ち入り許可の申請を出しましたが認められず、今回の承認撤回を機にやっと確認することができました。
沖縄防衛局が環境保全措置として移植の対象にしているサンゴ類は、水深20m以浅に分布しているものだけなので、このサンゴは対象外です。ジュゴン個体Cが頻繁に使っていた海草藻場もこの付近であったことから、美謝川が流れ込むこの場所が生き物たちにとって重要なのだと思います。ていねいな調査もせずに、移植という最低限の措置すら取られずに埋め立てられてしまうことは大変残念です。
普天間飛行場代替施設建設事業におけるサンゴ移植の基準については日本サンゴ礁学会保全委員会(2016)をはじめとする専門家から疑問が呈されています。
すなっくスナフキンが撮影したコモチハナガササンゴの動画もぜひご覧ください
*大浦湾100番勝負!その41.秘密の花園(1)コモチハナガササンゴの大群集
<参考>
*岩波書店 科学 巻頭エッセイ(2018年8月号)沖縄島辺野古・大浦湾の危機から
https://www.iwanami.co.jp/news/n25706.html
*普天間飛行場代替施設建設事業に伴う臨時制限区域への立ち入り許可のお願い
https://www.nacsj.or.jp/archive/2018/04/8476/
台風の影響も生じています。台風24号が去った直後には、長島付近に設置してあった航路ブイが大浦湾の真ん中にまで移動していました。海中には護岸に設置されていた有刺鉄線が落ちていました。別の場所では枝状のサンゴの枝の部分が折れている状態が広範囲に広がっていることが確認されています。
浅瀬に広がる砂地と海草藻場は、ジュゴンやウミガメをはじめとする多くの魚が幼魚の時を過ごす大事なゆりかごです。これらは沖縄の大切な財産です。護岸を今すぐに撤去すれば、今であれば辺野古の環境は元に戻せます。
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