2018.10.29(2018.10.31 更新)
絶海の孤島・南硫黄島 10年ぶりの上陸調査リポート
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テーマ:自然環境調査
フィールド:南硫黄島
9月16日NHKスペシャルで放送された「秘境探検東京ロストワールド第1集南硫黄島」をご覧になった方はいらっしゃるでしょうか。2017年6月13日から6月28日までの16日間にわたり、南硫黄島で行われた調査を紹介します。この調査は東京都、首都大学東京、NHKの合同調査として実施されました。
南硫黄島(標高916m)は、定期航路のある父島から南330㎞に位置します。1936年、1982年、2007年と過去に3回の学術調査が行われたのみで、人による影響がほとんどない島として世界的にも貴重な場所です。そのため隊員は身に着けるもの全て新品を用意し、島に持ち込むものはクリーンルームでチェックをした上で厳重に封印して持ち込みました。
この島は、大陸と陸続きになったことがない海洋島で、形成から約3万年が経過しています。風、鳥、海流によって運ばれてきた生物が定着し、今、爆発的な生物進化を目撃できるとされています。
10年間で雲霧林が減少
NACS-Jは気象と植生調査を担当し、10年前にも南硫黄島調査に参加していることから同じ場所での変化を把握することを目指しました。島の下部は亜熱帯、上部は温帯です。島にぶつかった湿った空気が急激に上昇することにより、標高約500m以上は、年間を通して湿度90%以上のじめじめした環境で、幹や枝が着生植物に覆われた独特の熱帯山地型の雲霧林が見られます。
ヒサカキやガクアジサイなど本州でもおなじみの種群が父島や母島などを飛び越えて上部の温帯域で生育しています。今回の調査で、絶滅したとされていたランの仲間が雲霧帯で発見されました。また、固有種のカタツムリ・コダマキバサナギガイが雲霧帯の中の環境の違いで、少なくとも5種に分化してることが分かりました。霧霧帯の生態系がとても貴重であることが、再認識されています。
しかし、山頂付近の雲霧林はこの10年間でコブガシやエダウチヘゴの枯死により急激に減少している可能性があることが分かりました。温暖化による乾燥が原因として推測できます。また、島のあちこちで土砂崩壊が発生し、崩壊地には外来種のオオアレチノギクやシンクリノイガなどが生育していました。外来種が多く見られる近隣の硫黄島から侵入しているのかもしれません。
今回、はじめてドローンに搭載した4K映像による全島調査が行われました。今後は、より正確な変化を把握することができると思います。
▲山頂付近でのみ見られる硫黄列島固有種のエダウチヘゴ(写真左)/600m付近のコブガシにとまるオガサワラオオコウモリ。父島のコウモリと違い、昼間も飛翔しあまり羽ばたかない。(写真右上)/南硫黄島固有種のコダマキバサナギガイ(写真右下)
▲年間を通じて霧に覆われる山頂雲霧林(写真左)/波が強くボートで接岸できないため、岸から50mほどのところから荷物を運びながら泳いで上陸。上陸したのは各自然のスペシャリスト(写真右)
担当者から一言
リポーター エコシステムマネジメント室 朱宮丈晴 ドローンによる撮影など技術の進歩は目覚しいものがありました。さらに10年後は遠隔地からの操作だけで調査が可能となるかもしれません。 |
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