2018.10.29(2020.04.20 更新)
【配布資料】今日から始める自然観察「落葉樹に宿るヤドリギを探そう!」
観察ノウハウ
専門度:
<会報『自然保護』No.566より転載>
このページは、筆者の方に教育用のコピー配布をご了解いただいております(商用利用不可)。ダウンロードして、自然観察などでご活用ください。
ヨーロッパには「クリスマスにヤドリギの下でキスすると幸せになる」という言い伝えがあり、万葉集にも詠まれた植物。
ヨーロッパから日本まで分布し、その不思議な生態ゆえに人々を引きつけてきたヤドリギを観察してみましょう。
尾崎 煙雄(千葉県立中央博物館)
ヤドリギってどんな植物?
ヤドリギはほかの樹木の枝に根を差し込んで養分や水分を奪う寄生植物です。ただしヤドリギ自身も光合成をして養分の一部を自給しています。樹木の枝や幹に寄生する植物は世界の熱帯から温帯に約千種が知られています。日本にも六種が分布し、その中でヤドリギは最も北にまで分布する種です。
種としてのヤドリギはユーラシア大陸の温帯に広く分布し、いくつかの亜種に分けられています。ヨーロッパの平野部に分布するのは白い実がなるセイヨウヤドリギという亜種です。淡黄色の実がなる日本産のヤドリギは中国や朝鮮半島と共通の東アジア亜種で、国内では北海道から九州にかけて分布します。なおヤドリギは雌雄別株で、実がなるのは雌株だけです。
日本産のヤドリギが寄生する相手(ホストといいます)はすべて落葉広葉樹です。本州中部以南の平野部ではケヤキやエノキ、そしてサクラなどのバラ科樹木に寄生する例がよく見られます。山地や北日本ではナラ類やブナ、シラカバ、ナナカマドなどによく寄生しています。ただしこれらは代表的な例で、ほかにも多様な落葉広葉樹がホストになります。
ホストが落葉する冬は、常緑性のヤドリギが目立つため観察の適季です。多くの場合、一本のホストに数〜十数個体のヤドリギが寄生していますが、時には百以上も寄生する例もあります。あまり多く寄生されるとホストが枯れることもありますが、たいていは共存しているようです。
冬にヤドリギを探すと、レンジャク類に出合うこともあります。ヤドリギが多い場所とまったく見つからない場所があることにも気が付くでしょう。また、落葉樹にしか寄生しないのは、ヤドリギが冬季に光合成することが重要なのかもしれません。ヤドリギの生態にはまだ多くの謎があります。ヤドリギを見つけたら、皆で地図に記録したり、一年を通じて観察してみてはいかがでしょうか。
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クイズの答え:
真ん中の黒い点は雌しべ(柱頭)の痕跡で、それを取り囲む4つの点は4枚の花びらの痕です。