2018.08.31(2018.11.28 更新)
森林経営管理法って何?
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テーマ:生息環境創出
『自然保護』No.565号の特集テーマ「シカ問題」にも深くかかわりのある、各地に広がる放置され荒廃した森。こうした森の管理に関する「森林経営管理法」という法律が成立しました(2018年5月)。この法律の解説と日本自然保護協会としての活動をご報告します。
※会報『自然保護』2018年9・10月号 話題の環境トッピクス1「森林経営管理法って何?」より転載
林業と森林管理を促進するための法律
「森林経営管理法」は、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の両立を図ることを目的としています。そのために次の①~④を行うことにしています。
①森林所有者に森林経営管理の責務を明確化する。
②森林所有者が経営管理を実行できない場合は、市町村が経営管理の委託を受け、意欲と能力のある林業経営者に再委託する。
③自然的条件から再委託できない森林は市町村が経営管理し、
④意欲と能力のある森林経営者の森林管理の条件整備として路線網整備の推進などを実施する。
目的自体には反対ではありませんが、行政が強権的に森林経営の管理を集約できることになるため、森林の乱活用などが起こりうる、と自然保護団体などから強い懸念が示されています。一方で人材はあっても資金不足で整備の続かない里山のような森林管理にも利用できるのであれば、意義のあるものにもなりえます。そこで日本自然保護協会は、法案成立前から衆議院および参議院の農水委員会に参加する議員に働きかけを行ってきました。
森林環境税との関係は?
私たちが重視した点は、森林の多面的機能のひとつである生物多様性保全がこの法律に明確に位置付けられているかでした。
まず、前出の「①森林所有者への経営管理の責務の明確化」に関して、規定される森林経営管理の責務に生物多様性保全機能が位置付けられているのかを注視しました。
次に、「③自然的条件から再委託が難しい森林を市町村が管理する」に関してです。市町村の森林管理費の財源となるのが2024年から導入予定の「森林環境税」です。この法律では、市町村が間伐などを行うとされていますが、林務担当者が不在という自治体も存在する現状では、とりあえず税金を投入して間伐を行うだけだったり、無理して無計画に皆伐を行うなどの安易な森林施業が増加し、かえって森林環境の破壊が進む可能性があります。
このため、生物多様性保全にも貢献する森林管理となるように明確にしておく必要があり、これらを議論してもらうべく議員に働きかけました。
その結果、付帯決議に生物多様性保全に資することや、人工林から自然林への誘導も考慮することなど、自然保護の観点から意見を明記することができました。
環境税の用途、意見募集
今回の法律はあくまで森林経営管理に関することが主眼です。森林環境税については、税徴収のための根拠法が必要で、次の通常国会にかけられる予定です。この根拠法に何を書き込むかが重要になります。森林環境税が皆様の地域の自然保護活動にも有効になるものにしたいと考えていますので、「こんな活動にも使えるようにしたい」などのご意見を日本自然保護協会までお送りください。それらも踏まえ、さらなる働きかけを行いたいと思います。
辻村千尋(日本自然保護協会 保護室)
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