2018.08.23(2018.08.23 更新)
ぬるっと抜け出せない「ニホンウナギ包囲網」で、持続可能な利用を
解説
専門度:
テーマ:絶滅危惧種
IUCNレッドリストで、ニホンウナギが絶滅危惧種と評価された2014年から、少しずつ各地で保全に向けた動きが模索されています。日本自然保護協会でも、自然しらべ2017「うなぎ目線で川・海しらべ!」を実施し、日本の河川・水辺環境の質などが改善しつつも、ウナギにとってはいまだ生息しにくい環境であることを明らかにしました。(結果レポートはこちら https://www.nacsj.or.jp/official/wp-content/uploads/2017/05/ss2017_report.pdf)
世界的には、2016年ワシントン条約の検討議題として提起され、付属書掲載(国際取引に規制をかける生物種として認めること)までの道のりはまだ長いものの、その検討が続いています。
ニホンウナギ含む、ウナギの保全と持続可能な利用に向けた最新の動きについて、8月22日、専門家を招きメディア向け勉強会・NGO意見交換会を企画しました。
IUCNレッドリストの評価をリードしたマシュー・ゴロック博士を日本自然保護協会にお招きして開かれた勉強会では、IUCNの専門家グループによってウナギ類の再評価のワークショップが計画されていること、ワシントン条約の科学委員会(動物委員会)でウナギ類の検討が行われていること、フィリピンや日本などでのウナギ保全の動きなどが説明されました。
ワシントン条約によるウナギ類の調査では、2010年のヨーロッパウナギのEU域外への輸出停止で何が起きたかを報告しているそうです。EUからの輸出が止まったことで、アメリカウナギやニホンウナギなどの輸出(=捕獲)や熱帯域のウナギ(ビカーラウナギなど)の国際取引が急増し、かつ、市場流通量の低下に起因する価格高騰に伴う違法取引の増加などが見られました。
特定種類のウナギをワシントン条約の規制対象種にすることで生じるリスクや市場への(他のウナギ種への)インパクトを考えると、少なくとも商用に利用されるウナギすべてを付属書に記載して、世界共通ルールに基づく管理、市場の透明化を図るのが、1種1種規制を作っていくよりずっとコストパフォーマンスがよいように感じました。
同時に、ワシントン条約の仕組みも完璧ではなく、ウナギ類の貿易統計や取引報告書などに、説明の付かない数字もあり(同じであるべきウナギの輸出量と輸入量に大きく隔たりが出てくるなど)、ワシントン条約の仕組み強化も必要だそうです。
NGOの意見交換では、国際条約上の規制の合意形成は時間がかかることから、同時並行で進めることができる、生息域内保全の取り組み、市民参加型調査、ウナギ魚道によるウナギ回遊の支援、市場調査などNGOができることも多くあることから、ウナギ保全のためのNGO協働するグループを作って取り組むことが必要ではないかといった意見が出されました。
今回の勉強会・意見交換会で、ニホンウナギに限らず、ウナギの生息を巡る現状は厳しく、密猟をはじめ、様々な法律や制度や管理にいくつもの抜け穴があり、資源・人材も限られていることが分かりました。ウナギという自然の恵みを日本がこれからも享受するためには、抜け穴のないような、厳格な管理体制を、世界・国・地域レベルで構築する必要があると感じました。