2018.03.09(2018.03.12 更新)
自然豊かな奄美大島での通信所建設計画、計画変更へ!
解説
専門度:
テーマ:生息環境保全
フィールド:奄美大島
奄美大島は、アマミノクロウサギをはじめとした希少な生き物たちが数多く生息・生育し、類まれなる生物多様性の高さから、日本でも国をあげて世界遺産登録を目指している地域です。その奄美大島の世界遺産推薦地域に隣接した場所で、自衛隊の通信所を新たに建設計画が浮上しました。
「希少種の森に通信所建設計画 防衛省、鹿児島・奄美で」朝日新聞 2017年11月
建設予定地は、湯湾岳山頂から約1kmの距離にある場所(大和村有地)で、周辺には環境省絶滅危惧ⅠA類のアマミエビネやココメキノエラン、絶滅危惧Ⅱ類のフジノカンアオイなど、地域固有種を含めた希少な植物が多く生育しているエリアです。
12月に日本自然保護協会スタッフが建設予定地付近を視察した際には、環境省絶滅危惧ⅠB類のアマミノクロウサギの糞も多く確認されました。
日本自然保護協会では、12月初旬、登録に向けた検討を行うIUCN世界遺産パネルの会議に合わせて、通信所の建設に関する情報提供を行うとともに、12月22日付で防衛大臣宛に、通信所の新設に対して撤回を求める意見書を提出しました。
奄美大島での防衛省通信所建設計画の撤回を求める意見書を出しました(NACS-JオフィシャルPro)
その後、関係各省の真摯な対応により2018年2月に、当初の予定地(新設地)から既存施設を再利用する形で、計画変更がなされることとなりました。
この計画変更により、新たな造成をすることなく 予定地周辺の環境改変が行われない形となったのです。
奄美大島の森を歩くと、アマミノクロウサギや清流に棲むアマミイシカワガエル、地際にひっそりと花をつける多種多様なカンアオイ類など、奇妙で美しい生き物たちに出会うことができます。それらは、大陸から切り離されて、悠久の時を経て築かれた独特の生物相を物語るものです。
また、奄美大島では、植物が調べつくされた日本では極めて稀な新種発見となった アマミチャルメルソウも2016年に記載されたばかりです。この発見は、奄美大島には現代もなお神秘に満ちた奥深い自然が存在していることを表しています。
しかし、今回の通信所の建設計画に限らず、すでに着手されている島内2箇所での自衛隊関連施設建設や辺野古米軍基地建設に関連した土砂採掘など、近年、新たな開発も含む大規模な環境改変が多く生じています。
そして、自然保護を実現するために登録を目指した世界遺産も、来訪者の増加がオーバーユースの問題につながる可能性もあります。
世界の宝ともいえる奄美の自然環境を次世代に受け継ぐためにも、今後も動向に注視していく必要があります。
※ 奄美大島の森のなかには、猛毒を有するハブも生息しています。近づくときなどは、現地に詳しい方などに同行してもらうなど注意してください。
(エコシステムマネジメント室 後藤なな)