2018.02.21(2018.02.21 更新)
モニ1000里地調査 全国調査10年間を伝えるシンポジウムを開催しました!(後編)
イベント報告
専門度:
テーマ:モニタリング
こんにちは、エコシステムマネジメント室の朱宮です。
2018年1月20日、東京で開催した「モニタリングサイト1000里地調査10年の成果~データでひも解く里山の変化と市民調査の可能性~」をご報告します。前編はこちらからご覧ください。
午後からは、ポスター会場にて、実際にモニ1000里地調査を現場で実施されている全国の調査員の皆さんによるポスター発表会・交流会がありました。
ポスターは全部で30枚、うち実際に当日来ていただき発表もしていただいたものは17枚でした。北海道や長野、静岡など各地の調査員の方から発表いただきました。偶数と奇数番号で前半と後半に発表時間を区切って発表していただく予定でしたが、途中で発表する方々が入り乱れるような形になり、もはや主催者の意図とは無関係になるほど活発な発表や交流が始まりました。市民調査・里地調査に関心を持って来ていただいた一般参加の方や、来年度から新しく調査に参加される方も、発表される調査員の方々とも活発に意見交換があり、調査員の方々から直に意気込みなども感じることができる場になったのではないかと思います。
ポスター発表の内容も洗練されたものも多く、データのとりまとめなどを含んだ学会発表のような内容のものまでありました。
14時40分からは、また大教室のシンポジウム会場に移動し、全国から3名のモニ1000里地調査員の方から地域の事例を発表いただきました。
NPO法人天覧山・多峯主山の自然を守る会(てんたの会)の大石章氏から「モニタリングサイト1000里地調査を活用した里山再生」、長池公園副園長の小林健人氏からは「学生と共につくる地域の未来-モニ1000調査の活用法-」、NPO法人エゾリスの会の伊藤育子氏から「楽しくなければ調査じゃない!〜『帯広の森』の場合〜」と題してご発表いただきました。
大石氏は、飯能市での里山保全活動について発表していただきました。調査サイトである「天覧山・多峯主山」は企業、自治体、そして大石氏も所属するNPOとで協働管理をしている場所です。市民環境会議を立ち上げ、自治体や土地所有者とモニ1000里地調査を結果など里山の現状を共有し、そこから見えてきた課題を解決するために条例の制定やアライグマ対策を行いました。そうした結果から、参画する企業が社会環境貢献緑地評価システム(SEGES)で表彰されたり、飯能市の郷土館がリニューアルオープンされるなど、着実に活動の幅を広げられていることをご報告いただきました。協働の場を設定し多様な主体を巻き込む方法は、たいへん参考になりました。
続いて、小林氏の発表では、八王子市が所有する約900箇所に及ぶ都市公園のうち約80箇所の公園を指定管理するNPO法人フュージョン長池が、公的な場である公園管理にモニ1000里地調査を活用している事例を報告していただきました。自身も生来の生き物好きで語りの端々に生き物へのまなざしが感じられましたが、公園管理において「人にも自然にも選んでもらえる公園にしたい」との言葉には感銘を受けました。今回の発表では、小学生や中学生、大学生、企業の社員とその家族が調査を実際に体験することができるイベントを多く開催することで、公園の自然に関心をもってもらい、公園のパークキッズレンジャー制度などを通して調査に協力してもらうなど担い手づくりの事例を紹介していただきました。今後学校の授業でカリキュラム化し、調査を定例化していくなど無理のない形での地域の市民が係わる里山の保全のあり方を目指しているとのことでした。公園に寄せられた小学生からのメッセージには未来への希望が感じられました。
最後は、伊藤氏の発表では「無理をしないで続けていくことが楽しい里地調査の極意であること」を紹介していただきました。調査というと、計測器を使って記録をとりながらまじめな顔をして実施するというイメージですが、エゾリスの会の調査はとにかく楽しそうでした。調査をしている横でカエル釣を楽しむ少年、チョウよりも他の昆虫のほうが大好きなチョウ調査グループの班長など、参加者は多種多様ですが、名前を覚えるのが得意な人、前のことをよく覚えている人、図鑑を持つ人…など、参加されている方の特性がうまく活きるように分業して調査を楽しいものに変えているそうです。何より発表をされている伊藤さんがとても楽し気に発表されていて、日頃の調査の様子も伺えるようでした。かんじきをはいて鳥類調査をしたり遊びの要素がふんだんに盛り込まれているのも工夫されているなと感心しました。
▲ みんなの「知りたい」を共有できる素敵な発表でした。
シンポジウムの最後には、検討委員である、青木雄司さん(哺乳類)、石井実先生(チョウ類)、植田睦之さん(鳥類)、大場信義先生(ホタル類)、尾崎煙雄さん(植物)、畠佐代子さん(カヤネズミ)、村上哲生先生(水環境)から一言ずつご講評をいただきました。先生方はモニ1000里地調査が始まる10年前から関わられており、初めのころは全国交流会を実施しても10数人しか集まらず、その頃に比べると、今回100人以上の方に集まっていただけるようになったことに深い感慨を述べられる先生もいらっしゃいました。一方で、この先世代を継いで調査を継続していくには、最後の伊藤氏のメッセージにもあるように調査を「がんばらないこと」、「楽しむこと」が大切であるという言葉で締めくくっていただきました。
プログラムは以上で終了しましたが、その後大学の5階のカフェテリアでささやかな懇親会を開催しました。新規サイトの調査員の方にも何人かご参加いただき抱負を語っていただきました。
冒頭にもありましたが、モニ1000は100年間を目指した事業であり、10年もの月日が経ちましたが、やっとはじめの10年が終えたところでもあります。全国の調査サイトでは、ほぼ毎日のように里山にでかけ、多くの人の「身近な自然を見つめる目」が寄せ集まって、この10年間を築くことができました。これからはますます調査を継続するなかでいかに「データを読み解くか」「保全に活用するか」「未来に調査を継承できるか」が鍵になっていきます。今回のシンポジウムや交流会の中では、多くの方々からこれらへのヒントをいただきましたが、NACS-Jも今後も里地調査を通じて里山の保全に取り組んでいきたいと思います。
参加していただいたすべての皆さま、ご講演・ご発表をいただいた皆さま、そして施設を貸していただき、交流会運営に際し最大限のご協力をいただいた帝京科学大学に感謝いたします。
モニ1000について詳しく知りたい方はこちらから
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