日本自然保護協会は、生物多様性を守る自然保護NGOです。

  • 文字サイズ

スタッフブログ

Home 主な活動 スタッフブログ 25カ国400名が集まった第8回アジア湿地シンポジウムに参加してきました。

スタッフブログ 一覧へ戻る

2017.11.14(2017.11.14 更新)

25カ国400名が集まった第8回アジア湿地シンポジウムに参加してきました。

専門度:専門度5

テーマ:自然資源生息環境保全

フィールド:湿地

 保護室の安部です。

3年に1度行われ、今回8回目を迎えるアジア湿地シンポジウム(http://aws2017.org/)に参加してきました。会場は、ラムサール条約登録湿地が3つある有明海をもつ佐賀県にて開かれました。

 

<1日目>
漁業の様子が見える有明海を見ながら佐賀空港に到着し、午後の有明海のセッションの後半に間に合いました。

有明海の再生の話しから有明海の神様の話など、多方面から有明海のようすが伝えられています。

これから4日間、世界中で失われつつある湿地をテーマに議論が行われます。

★アジア湿地シンポジウム2017 ブース展示
会場の外には湿地関係のNGOや、地元のお菓子やお酒を展示しているブースがあります。ラムサールネットワーク日本も1つブースを出しています。そこに沖縄の泡瀬干潟と辺野古・大浦湾のミニポスターを展示していただいています。

 

<2日目>
アジア湿地シンポ~セッション1:ウェットランド と減災、気候変動~

IUCN-Jの古田さんのEcoDRRやNature Based Solutionのご紹介から始まり、インド、パキスタン、フィリピンなどさまざまなアジアの国々から取り組みのご紹介がありました。気候変動の被害がアジア地域に集中する傾向があると言われるなか、重要な取り組みです。

ランチの時間の今はサイドイベント「なぜカワウソが世界各地で戻ってきているのか」に参加しています。
対馬でカワウソが発見されたのは記憶に新しいところで、専門家からどうやら韓国の方から漂流してきた可能性が高いのではないかというプレゼンがありました。
シンガポールでは都市化が進み埋め立て尽くされたのですが、その後、公園や河川の在り方が見直され、改良され、魚類などが戻ってきました。カワウソもマレーシアから移ってきました。カワウソはresilient species(強い種)なので戻ってくることができたそうです。しかしながら都会で生きるることは野生生物にとって厳しく交通事故で死ぬ個体も多く食性も変わっています。ドイツやオランダでもカワウソが戻ってきています。

日本も埋め立てをしている場合ではないです。世界では埋め立ててしまったところを回復させて、野生生物が戻ってきているのに。

 

アジア湿地シンポ セッション3 自然資源の利用と湿地

豊岡の田んぼなど上手にマネージメントできている湿地の話が多いですが、厳しい現実も見なければなりません。菅波完さん(漁民ネットワーク)より諫早の堤防閉め切りにより有明海で起こっている悲劇についてご紹介がありました。

・ラムサール条約登録湿地が3つある場所で開催されているAWS(荒尾、東よか、鹿島)。同じ地で起こっている諫早のことも知っていただきたい。
・1997年4月に締め切られた潮受け堤防
・公共事業による環境破壊として知られる
・専門家から堤防を開けるようにという提言が出ている。もう18年になるがまだ実現していない。
・締切前は豊かな干潟で漁業が行われていた。
・有明海の絶滅危惧種にそのうち漁業者が含まれてしまうのではないか
・赤潮が原因で海苔が色落ちする。
・(堤防閉め切り以来)漁業自体が厳しく、自殺者も多い
・水質浄化機能を持つ干潟が失われた
・潮が弱くなっている。(堤防が)有明海の潮のメカニズムを変えた。
・複合的な要素が影響している。
・開門が必要。潮の流れを復活させることが必要。貧酸素の状態からの回復。
・締め切って作った農地での農業もうまくいっていない。アオコが発生。
・裁判所からも開門するよう命令が出ている。
・住民の意見を聞くと賛否両論があるが、漁業関係者はおおむね開門に賛成。
・関係者間の議論ができていないことが一番の問題。
・佐賀で行うAWSをきっかけに対話の場ができることを望む

 

アジア湿地シンポ セッション4 自然のインフラなど

清野聡子さんから「カブトガニの保全と日本の沿岸管理」と出した発表。

・大きな開発のみが生物や環境にとっての脅威になっている訳ではない
・小さな開発の影響の蓄積も大きい。
・約60年前からカブトガニの分布は変わってきた。
・川から海への連続性を失った。
・海砂採取は沿岸環境への大きな脅威
・ラムサール条約に加盟したものの、マネージメントがうまく行っているとは思えない部分も多々ある。
・生物多様性条約COP10は湿地と沿岸保全に関し、大きな第一歩となった。
・それでも続く沿岸開発。
・日本の海岸線の50%以上に人工構造物が置かれている。
・政府が出してくるのは川も砂浜も描かれていない利用計画図。
・東日本大震災ののちに、次々の東北沿岸に建てられる巨大防潮堤。
・セットバックすることが必要(例:大分)
・沿岸の連続性を保つことこそ、Eco-ERRであり、沿岸の保全につながる。
・人間が住んで良い場所のリミットがある。
・博多ではカブトガニのすむ砂浜の復元などが行われている。

これに対し座長から、「日本と中国と韓国は類似の環境問題を抱えている。セットバックも取り入れられている地域もある」とコメントがあり、次のプレゼン「タイのチェンマイにて蚊が媒介する病気と湿地の管理」にうつりました。会議はまだまだ続きます

 

<3日目>
エクスカーション

3日目のエクスカーションは荒尾コースを選びました。
最初に諫早の潮受け堤防(「ギロチン」と形容されたもの)を視察しました。ここは日本の最大の自然破壊の現場の一つです。「水害を防ぐために行った」、「九州最大のビオトープである」という計画当初には存在しなかった行政側の説明を聞いていると頭がおかしくなりそうです。
今立っているこの場所は20年前には海だったとのこと。今日は農水省が道路整備を行うために通行止めになった場所があり、(潮受け堤防を)こんな遠くからしか見せてもらえませんでしたが、広大な海を失ってしまったことを実感し呆然としています。


続いて、ラムサール条約登録湿地である荒尾干潟に来ました。地元が準備してくれた長靴をはいて、干潟観察をしました。総勢80名です。アナジャコ、タイラギなどを見ることができ、また美しい夕日を見ることが出来ました。荒尾干潟で採れた海苔のスープもいただきました。
同じ有明海に位置する 諫早湾。干拓ではなく、ラムサール登録をしていればこのような楽しい場所になったのに残念でなりません。

 

 

★シンポジウム「諫早湾干拓がもたらした有明海漁業の衰退」

最初に陣内隆之さんから(有明海漁民・市民ネットワーク)「日本最大の湿地破壊 諫早湾干拓事業」についてお話しがありました。短期開門調査からもわかるよう、堤防閉め切りによる環境の劣化が明らかです。根本対策として、水門開放調査が不可欠だという内容でした。続いて佐藤正典先生(鹿大)の「漁業を支える軟泥干潟の役割」と題したお話しです。

・有明海の価値の大きさ。豊富な漁場
・日本全体からみても大変特別な場所。日本の宝
・干潟の大きさ。絶滅危惧種が最後に生き残る場所
・同じ有明海でも熊本は砂の干潟、佐賀は泥の干潟。住んでいる生き物がかなり違う
・伝統的な漁業が活発に残っている。
・生物、漁業の両方が絶滅の危機に。
・干潟には水質浄化作用がある。泥干潟は濁っているのが「きれいな」状態。
・堤防閉め切りによりこのような干潟の機能が一度に失われた。
・研究者は何が起こっているのかわかっているはず。
・泥の干潟は生産性が高い
・タイラギをはじめとする貝類の浄化機能は高い。
・私はアリアケカワゴカイ(絶滅危惧種)を研究している。
・締切前のデータが非常に少ないが、鳥のデータはある。シギチが日本一多かったことがわかる。
・今の諫早湾は負のスパイラルに陥っている。早く何とかする必要がある。
・干潟は生き物のゆりかご。ここに依存している生物がたくさんいる。これらを失ったら沖合の漁業にも影響が出るのは当たり前。
・一刻も早く開門し、環境を復元することが必要。そうしないと次世代に渡せなくなる。

3人目のスピーカーは 堤裕昭先生(熊本県立大)。「諫早湾潮受け堤防の建設が及ぼした有明海生態系の異変」。水質のお話しです。

・私の先輩に相当するこの分野の専門家たちが出してきた(行政側の)報告に問題がある、残念な状態。
・有明海の漁業の特徴は底生生物に依存している。漁業に問題が起きるのは当然
・昔のデータがないので物が言いづらいが、言わなければ死人に口なし状態になってしまう。海底の泥を調べればわかる。
・公表されているデータを用いることはできる
・空撮写真からも、締切の影響がわかる。東と西の潮流の差がなくなってしまい、水がよどんでいるのが今の状態。
・この話はいろいろな学会で発表しているが、反対意見も賛成意見も出ない。これが日本の科学者の現状。

中尾勘悟さんが撮影された写真を見ながら地元の漁業者のお話しを聞く「有明海漁業の昔と今を語る」セッションに入りました。

 

<4日目>
AWS Session 9「Wetlands and Biodiversity / Restoration / Reintroduction

AWSのセッション9にて辺野古・大浦湾の問題を発表しました。

 

このセッションではバングラディッシュ、中国、韓国、諫早、北海道などで生物多様性や自然再生に取り組む事例が紹介されました。

その後のポスターセッションでは喜多自然先生らにより泡瀬干潟の問題について紹介がありました。

全体のまとめがあり、今は会議の最後に採択する佐賀宣言の文面について議論されています。
25カ国から400名が参加したアジア湿地シンポジウム。もうすぐ幕を閉じようとしています。

最後は佐賀宣言の採択で終わりました。
また泡瀬干潟のポスターが審査員賞を受賞したといううれしいニュースもありました。

スタッフブログ 一覧へ戻る

あなたの支援が必要です!

×

NACS-J(ナックスジェイ・日本自然保護協会)は、寄付に基づく支援により活動している団体です。

継続寄付

寄付をする
(今回のみ支援)

月々1000円のご支援で、自然保護に関する普及啓発を広げることができます。

寄付する