2017.09.01(2017.09.21 更新)
これでいいのか? 再生可能エネルギー
解説
専門度:
テーマ:自然資源森林保全環境アセスメント
フィールド:森林
つい先日、テレビの報道番組で伊東市(静岡県)のメガソーラー計画問題が取り上げられました。地域住民や自治体は、森林が伐採されることによる土砂災害への懸念や美しい海が濁るのではないかという懸念から計画に反対していますが、事業者は事業を計画通り進めるとして、軋轢が生じています。
日本自然保護協会の事務所には、この計画以外にも霧ヶ峰(長野県)や和歌山市(和歌山県)、岡山市(岡山県)、飯豊町(山形県)、常陸大宮市(茨城県)、湯宿温泉(群馬県)など、各地からメガソーラー建設による自然破壊の相談や情報が寄せられています。ここに挙げた事例以外にも全国各地に問題が生じているものと思います。
再生可能エネルギーとしての太陽光発電がなぜこんなに問題になるのでしょうか?
発電施設は規模を大きくすることで発電効率があがるというスケールメリットのある施設もありますが、太陽光発電にはそのスケールメリットがありません。
では、“メガ”にする意味やメリットはどこにあるのでしょうか。まずは、大規模な施設を作ることで周辺設備の集約化が図れるメリットが考えられます。ですが、最大のメリットは、発電事業は営利事業ですから、収益が大きくなることにあります。電気の買い取り制度を利用し、投資家をできるだけ多く募り、できるだけ収益を大きくして設備投資にかかった費用を回収するというのは経営者として当然考えるところでしょう。安い土地を探して開発を行えば、それだけ利益に回る分が大きくなります。
さらに、国の法制度の問題も関わってきます。太陽光発電は環境影響評価法の対象事業になっていません。ですから環境アセスメントをする必要がありません。もちろん、自治体独自でアセス条例の対象としているところもあります。その場合はアセスを行う必要がありますが、国が対象としてないことに準拠している場合も多いので、その場合はアセスが必要ではなく、アセスにかかる経費は必要でなくなります。それと、林地開発許可制度は、森林のもつ機能を代替えする処置を講じれば基本、開発を認めるという制度であるため、林地の開発規制が緩いという現状があります。
こうした事情がからみあって、現在、森林を伐採するメガソーラー計画が各地で持ち上がり、地域での軋轢を生んでいるという背景があるのです。
上記で、アセスの対象ではないことがあると指摘しましたが、アセスメント制度の根幹は、合意形成です。つまり合意形成のプロセスが不十分なままに事業が進められてしまうということにもなります。これも軋轢の大きな要因です。
現状のメガソーラーの進め方は、“地域”不在のまま外部がその利益を得るという構造になっています。これは、これまでの原子力発電をはじめとする中央集権的なエネルギー供給システムと同じではないかとさえ思います。
もちろん、原子力発電は即座にやめ、再生可能エネルギーに転換
しかし、もともと森林だった場所を皆伐して違う環境に変化させることは、地球温暖化という生物多様性への第4の危機への対策が、開発という生物多様性への第1の危機になってしまうという本末転倒の事態を生み出していることに私たちは気づくべきだと思います。
せっかくの再生可能エネルギー推進の動きが、地球環境、生物多様性保全という同じ想いを持つ者同士の軋轢になってしまっては、かえって既存の電力システムの温存につながってしまいます。きちんとした合意形成のプロセスを経る構造への転換が必要だと思います。
同時に、業界内での自主的なルール作りも必要ではないかと思います。しっかりと地域での合意形成プロセスを踏まえた再生可能エネルギーを、地域に利益が還元される仕組みで進めている良い事例も多くあります。しかし、一方で利益中心の悪質な事例があると、再生可能エネルギーの全てが悪いイメージで捉えられ、再生可能エネルギー推進にマイナスに作用してしまうことにもなりかねません。業界内で悪質なことが行われないように自主的な取り組みを進める必要があるのではないでしょうか。
こうした事態を改善するために、日本自然保護協会では、環境影響評価法の抜本的改正が必要だと考え、環境省に提言をしていますし、立法府への働きかけも行っています。しかし、法律を改正するには時間がかかります。
そこで皆さまへ提案です。自治体に対して、開発に際しての地域住民との合意形成プロセスを経ることを義務化する条例を制定するよう働きかけをしませんか?
私たちには議会への請願権が認められています。地方議会に請願を出し、条例制定を促すことは当然の権利として認められています。国民一人一人に認められた権利をしっかりと行使することで、地域の状況にみあった再生可能エネルギーが導入されていく方向性を見いだしていくことが、今、私たちに求められているのだと思います。
(保護室/辻村千尋)