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2017.01.31(2017.04.02 更新)

「自然資源を活かした地域づくり全国フォーラム」を開催しました:(前編)

専門度:専門度4

テーマ:自然資源

フィールド:東京都能登市

かつて“里山”は、食料や燃料、家屋の資材など、生活の全てのものを賄う場所であり、人々の暮らしのためになくてはならない存在でした。しかし、この半世紀で燃料は化石燃料へシフトし、人々の生活様式の変化とともに里山の存在価値も大きく変化し、現在においても開発による分断化・縮小化、そして手入れ不足などが全国的に進んでいます。

 

また一方で、里山地域においては、人口減少によるコミュニティの衰退、地域経済の低迷など、複合的な社会課題も多く生じています。

 

こうした様々な社会課題に対して、里山を現代に合わせた形で活用する方法を探り、地域の自然・生物多様性を守り、活かし、そこからもたらされる自然の恵み(生態系サービス)によって、課題解決に貢献していくことが大事だと私たちは考えています。

 

近年、国際的には“Nature Based Solutions(自然を基盤とした社会課題解決)”として注目されている考え方でもあります。これは全く新しい考え方というわけではなく、従来、人と自然が関わり合うことで成り立っていた里山を、時代に合わせた利用を促し(例えば食べものや観光資源など)、多くの人とその恵みを分かち合うことで、改めて“資源を得る場”にしながら地域づくりを進めていくというものです。

 

今回、NACS-Jでは、こうした考えのもと、1月22日に東京都江戸東京博物館(両国)にて、「自然資源を活かした地域づくり全国フォーラム(以下、全国フォーラム)」を開催しました。当日は、100名以上の方にご参加いただき、具体的に里山の現代的な利用を進めながら、自然資源を活かした地域づくりにつなげている事例を紹介し、また、地域においては、そうした「自然資源を活かした地域づくり」の担い手とはどんな人なのかを議論しました。

 

ここでは前編と後編に分けて当日の様子をご紹介します。
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午前の部では、まずはじめに基調講演として、当協会理事長・亀山より「地域の社会課題の解決に向けた生物多様性保全からのアプローチ」というタイトルで発表しました。

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発表では、自然はそのままではモノでしかなく、人の知恵によって価値が生まれるものであり、それがすなわち“資源化する”ということであると説き、何を、誰が、どういうプロセスで資源化するかについて、宮崎県綾町での事例について、NACS-Jも関わる綾プロジェクトも交えて紹介しました。
その後、午前の部では、2つの地域で展開されている「自然資源を活かした地域づくり」の事例を紹介していただきました。一つは広島県北広島町で繰り広げられている「芸北せどやま再生事業」について、もう一つは、石川県能登地域における「まるやま組」と「能登里山里海マイスター」についてです。

 

お一人目は、芸北 高原の自然館の白川勝信さんより「里山からはじまる、現代的な資源循環~『芸北せどやま再生事業』の取り組み~」をご発表いただきました。

 

“せどやま”とは芸北地域で呼ばれている“裏山・里山”のことです。かつては資源を得る場所だった“せどやま”は、冒頭でも触れたように、時代とともに芸北地域でも活用の場を失いつつありました。

 

そこで、芸北地域では、せどやまの地主さんから木材を地域通貨で買いうけ、木々は薪にして、薪ストーブ等を持つ薪ユーザーの方に売るという活用の仕組みをつくり、地域に寄り添った形で活用を進めている事例をご紹介いただきました。

 

これは、木材としては見られていなかった広葉樹の木々を活用の対象とすることでせどやまの多くの木々が昔のように“資源”となり、木々の対価が地域通貨となることで地域内の経済循環も生み出すという画期的な取組みです。また、芸北地域では、子どもたちにもこのせどやま再生事業を学び関わってもらうことで、今では、子どもたちの発想から、広葉樹だけではなく“茅”の活用の仕組みづくりにも発展しているのだそうです。
(写真:子供たちが木材の搬出作業を体験する“せどやま”.2015年撮影)

 

次に、まるやま組の萩のゆきさんと金沢大学地域連携推センターの伊藤浩二さんより、能登地域で展開されている自然資源を活かした地域づくりとして、「まるやま組」の取り組みと金沢大学が実施している「能登里山里海マイスター」についてご発表いただきました。

 

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まるやま組の萩のさんの活動は、地域全体を俯瞰して“仕組みづくり”をしていた白川さんと対照的に、自分たちの足元から、日々の暮らしを起点に広がりを作った活動です。まるやま組では、年に一度、集落のモニタリング調査で一年に記録された生物種を、地域の神事である“アエノコト”になぞらえて、地域の生物多様性に感謝する行事をされています。この取組みは2014年には、環境省の生物多様性アクション大賞も受賞されました。発表では、そうした活動のきっかけとなったエピソードや、活動の歩みについてご紹介いただきました。

 

まるやま組の取組みに大きな影響を与えたのが、金沢大学で実施されている「能登里山里海マイスター(以下、マイスター)育成プログラム」です。この能登里山里海マイスター育成プログラムは、人口減少社会のなかで人を増やし、仕事をつくり、能登の里山里海の持続可能な未来を創ることを掲げて発足した、能登地域で10年続くプロジェクトです。金沢大学が珠洲市と協力し、珠洲市の廃校になった小学校を拠点として、能登に定住し、能登の自然や文化を学びたい人、里山里海についてよりよく理解し、関わる仕事をしたい人を対象に、1年間の講義と実習、そして卒業課題研究を経験してもらい、“里山里海マイスター”に認定するというものです。まるやま組の萩のさんはマイスター修了生でもあります。伊藤さんの発表では、マイスター養成講座についてご紹介いただきながら、10年もの長きにわたる取組みが地域にもたらした成果についてもご発表いただきました。この取組みを通し、マイスター修了生たちは学びの場で交流が生まれ、能登の自然と文化について深めることができ、能登地域では着実に移住・定住につながっていることもご紹介いただきました。

 

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午前の部では、自然資源を活かした地域づくりの全国の事例を見てきましたが、能登地域の「まるやま組」や「能登里山里海マイスター育成プログラム」の発表を通して、地域づくりを進めていく上で、地域のなかで“担い手”となり、取組みを進めていく人について触れました。後編の午後の部では、さらに地域づくりを進めるその“担い手”像を掘り下げていきます。

 

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