2016.08.19(2017.04.04 更新)
ノウサギがいなくなる?
解説
専門度:
赤外線センサーカメラで撮影されたノウサギ。
テーマ:自然環境調査
フィールド:里やま
日本自然保護協会と環境省および全国2,500名の市民調査員と協力して進めている全国調査「モニタリングサイト1000里地調査」によって、身近な生き物であるノウサギが全国的に減少していることが明らかとなりました。
また、チョウの種類数やゲンジボタル・ヘイケボタルの個体数も全国的に減少傾向にあることや、その一方でアライグマやガビチョウなどの外来生物や、イノシシ・ニホンジカ・カモシカなどの大型哺乳類が、分布を拡大していることが明らかとなりました。
ノウサギが全国的に減少
モニタリングサイト1000里地調査では、赤外線センサーカメラを使った中・大型哺乳類調査が全国56か所で行われています。この結果から、ノウサギの個体数が全国的に減少傾向にあることが分かりました。特に本州の調査地で減少傾向が顕著で、都市近郊だけでなく中山間地の調査地でも減少していました。
このことから、里山の伝統的管理がなされなくなったことでノウサギが好むような草原的環境が減少していることが原因である可能性があります。この他に、テンも全国的な減少傾向が認められました。
一方で、外来種であるアライグマ・ハクビシンは個体数・分布とも拡大傾向にあり、また在来種のタヌキやイノシシ・ニホンジカ・カモシカについては個体数の増加もしくは分布の拡大が認められました。
ニホンジカが増え生態系に影響
ニホンジカについては2014年までに全国で分布・個体数とも拡大増加していることが分かりました。
ニホンジカの生息がこの調査で初めて確認された大分県九重町や岩手県一関市などの調査地でも個体数が年々増加し続けていたほか、2006年から調査を続けている山形県鶴岡市の調査地では2014年に初めてニホンジカが撮影されました。全国的には群馬や大阪・京都の調査地で特に頻繁にニホンジカが記録されました。
また、植物相調査のデータもあわせた解析結果からは、ニホンジカが頻繁に確認される調査地ほど植物の記録種数が年々減少している可能性も認められました。
ホタルなどの水辺の生き物たちが衰退
このほかに、ゲンジボタル・ヘイケボタルやヤマアカガエルの個体数も、緩やかではあるものの全国的に減少している傾向が認められました。また、ススキ原やヨシ原などの湿った草地・湿地を生息地とするカヤネズミについても、調査を開始した頃から生息面積が減少している調査地が多く認められました。
湿地や休耕田の乾燥化が全国的に進んでいることが原因の一つとして考えられます。ただし一部の調査サイトでは保全活動の成果によってホタル類の個体数やカヤネズミの生息地の範囲が回復した場所もありました。
調査と現場での保全管理のノウハウ共有の促進が重要
こうした結果からは、外来種が全国で分布を拡大している一方で、草地・湿地環境が全国的に失われている可能性が示されました。また非常に緩やかではあるものの植物やチョウ類の記録種数も全国的に減少しており、里山の生物多様性の喪失が進行していることを反映している可能性があります。
生物多様性の傾向や変化の原因をとらえるためにも、研究者と連携した解析や、より多くの市民が調査に参画できるような調査手法の改良を今後も進めていくことが重要です。一方で、調査と並行して、効果的な保全管理手法の情報を調査サイト間で共有することで各調査サイトでの保全対策を促進していくことも重要です。