2014.08.04(2020.08.08 更新)
イヌワシが狩りをする環境の創出試験を開始します。
専門度:
テーマ:生息環境創出
フィールド:里山奥山
プレスリリース
公益財団法人日本自然保護協会
林野庁関東森林管理局計画課
赤谷プロジェクト地域協議会
イヌワシが狩りをする環境の創出試験を開始
国有林の生物多様性復元と持続的な地域づくりを目指す赤谷プロジェクト(群馬県利根郡みなかみ町)は、森林の生物多様性の豊かさを指標する野生動物としてイヌワシ(*1)のモニタリング調査を続けてきました。
今回、これまでの調査結果をもとに、人工林165haを対象として、イヌワシが狩りをする環境を創出するとともに、この地域本来の自然の森に復元する試験を開始します。
まず、スギ人工林2haを皆伐(*2)する第1次試験地を設定し、今年9月から伐採1年前のモニタリング調査を開始します。その後も調査結果を踏まえて3~5年毎に順次試験地を設定していきます。試験で得られた成果を発信し、絶滅の危機にある全国のイヌワシの生息環境の向上に役立てることを目指しています。
(*1)第4次レッドリスト絶滅危惧ⅠB類、種の保存法に基づく国内希少野生動植物種、文化財保護法に基づく天然記念物等に指定。
(*2)「皆伐」は林地内の全ての樹木を伐採する方法で、「間伐」は林地内の樹木の3割程度を伐採する方法。
<特徴>
-
1.20年間の観察データに基づく試験地の設定
対象のイヌワシペア(つがい)の行動を20年間観察したデータ(過去に狩りに使われていた場所や、主要な飛行ルート、止まり場所等)から、潜在的に狩りに利用できる場所を抽出しました。その中から、特に多くの餌動物が必要な子育ての期間(抱卵育雛期)に利用することが期待できる人工林165haを対象として試験地を設定していきます。このような科学的根拠に基づく試験地の設定は前例がありません。
-
2.人工林の“皆伐”によって狩りができる環境を創出し、自然の森を復元
イヌワシは草原のような開けた環境で狩りを行い、ノウサギなどを主な獲物としています。そのため、狩りをする環境を創出する場合は、間伐(*2)よりも皆伐が望ましいと考えられてきました。イヌワシが狩りをする環境を3~5年毎に皆伐によって創出するとともに、この地域本来の自然の森を復元する計画は日本初のものです。
-
3.多様な主体によりモニタリングを実施し、成果を全国に発信
この試験の実施過程と成果を、絶滅の危機にある全国のイヌワシの生息環境の向上に役立てるために、多様な主体(専門家、自然保護団体、行政機関、地域住民、ボランティア、民間企業等)の連携によりモニタリングを実施するとともに、その成果を発信していきます。
赤谷の森におけるイヌワシが狩りをする環境とできない環境
狩りをする環境
自然開放地とは、標高1500~2000mの高標高域に分布する、冬季の多雪のために樹木が生育できない環境です。赤谷の森におけるイヌワシの主な行動範囲のエリア1(面積約3600ha)(以下、エリア1)の中で、約1100haをしめています。 老齢な自然林とは、一本一本の樹木が大きく、樹木の間隔が広く、所々に倒木等も発生する環境です。そのため、イヌワシが林の中に入っていくための開けた空間を持っています。現在、エリア1の中で約1700haあります。 伐採跡地とは、樹木を伐採した直後の樹木のない環境です。3~5年が経過すると樹木が生育して狩りの出来ない環境に変化します。人為的につくり出される環境という点で、自然開放地、老齢な自然林と異なります。○ 自然開放地
主に、夏緑広葉樹林の展葉期(6~10月)に狩りをする環境として利用しています。○ 老齢な自然林
主に、夏緑広葉樹林の落葉期(11~5月)に狩りをする環境として利用しています。エリア1における人工林と、若い自然林を、将来的にこのタイプの環境にしていきます。○ 伐採跡地
現時点で、エリア1の中に存在しません。今回、試験地として、このタイプの環境を創出します。
狩りができない環境
人工林とは、人が木材生産を目的として、スギやヒノキ等を植えた環境です。樹木の間隔が狭いため、イヌワシは林内に入ることも、上空から獲物を探すこともできません。現在、エリア1の中に約500ha存在します。今回、この人工林を伐採することによって、狩りができる環境を創出します。 若い自然林とは、樹木があまり大きくなく、樹木の間隔が狭く、林内の空間が小さい環境です。そのため、イヌワシは林内に入ることができません。現在、エリア1の中に約300ha存在しています。× 人工林
× 若い自然林
イラスト:荻本央
補足資料 >>『イヌワシのハビタットの質を向上させる森林管理手法の開発試験計画』の概要(PDF/647KB)